大
標準

検索条件

商品カテゴリから選ぶ
商品名か商品コード入力

TopPage >園芸名著のご紹介 >沈黙の惑星

沈黙の惑星

沈黙の惑星

火星の死と地球の明日
ジョン・E・ブランデンバーグ/モニカ・R・パクソン、藤倉良 訳(1800円)

沈黙の惑星

ダイヤモンド社(2002)


読みどころ

『沈黙の惑星』とは火星のことです。1999年までの火星探査の成果について多くの事が述べられていますが、本書の目的は火星について語ることではありません。原題は『死んだ火星、死につつある地球』です。このタイトルこそ、著者が声を大にして訴えたいことです。つまり、「我々の住む地球は崖っぷちの状態にあり、それほど遠くない未来に、死んでしまった火星のようになる」という背筋が凍る警告の書です。著者の一人ブランデンバーグは物理学者として核ミサイル迎撃ビーム兵器の開発に携わった後、火星探査、月探査プロジェクトに参加した専門家です。
本書は地球温暖化という環境問題を「地球の火星化」ととらえ、論じています。現在起こっている環境破壊の深刻さを伝えるためか、非常に多くの環境問題に関するエピソードを取り上げていますが、却って本筋が分かりにくくなっています。おそらく共著者のパクソンがこの分野に詳しいジャーナリストであるため、力が入りすぎたためかと思われます。この図書紹介では、簡潔に本筋を再構成してみました。


 

バイキングによる火星探査の成果

バイキング計画の成功により、それまで未知であった多くの事が明らかになりました。火星にはかつて地球のように大気や水があり、今より温暖で海があり、川もありました。そして驚くべきことに生命体存在の可能性についても、多くの信ぴょう性を持って語られるようになりました。その火星はいつの時期か、おそらく大隕石の衝突により、大気と水のバランスを一気に崩し、高温化し、大気と水を全て失った結果、冷却して死んでしまったと推測されています。その時期がいつごろであったかは、まだ分かっていません。惑星の環境は、大雑把にいえば太陽からの距離で決まります。金星は近過ぎて受けるエネルギーが大きすぎ、火星では小さすぎます。地球は丁度良い位置にいるので、かつて隕石の衝突を受けても環境を回復することができました。火星では元々脆弱なベースに形成された大気と水の環境であったため回復できなかったということです。


 

地球は人間の手で破局に向かいつつある

地球温暖化は人間が化石燃料を燃焼させることにより、二酸化炭素が発生し、これが太陽光の赤外線を吸収して大気の温度を上げるというものです(カール・セーガンにより初めて唱えられました)。この温室効果により、熱波、乾燥化、大型台風の発生、冬の寒冷化などいろんな異常気象が引き起こされています。このような直接的災害は誰の目にも見えるので、まだ理解しやすいのですが、著者が警告しているのは、目に見えない所で進行している地球環境の変化です。


海洋は二酸化炭素の吸収限界に達している

海は大気中の過剰になった二酸化炭素ガスを吸収するシンクの役目を果たしていますが、これを吸収しきれなくなったことが大気中の二酸化炭素濃度を上昇させる直接原因になっているというのです。これ以上、二酸化炭素の放出を続けると、大気の温室効果以外に海水中の酸素濃度が低下することでプランクトンが減少し生態系に重大な影響を与えます。そればかりか海洋が限界を超えて二酸化炭素を貯留する過飽和状態になると、後で述べる破局的地球変動が起こる可能性が高まります。


大気中の酸素濃度は減り続けている

二酸化炭素濃度が年々増加していることはよく知られていますが、酸素濃度が毎年3.8ppmづつ減少していることは知られていません。地球上の酸素は全て植物の光合成反応によって作り出されたものです。酸素濃度が減少している原因は石油、石炭など化石燃料の燃焼によって大量に消費されていることと、森林の喪失による酸素産出量が減少していることによるものです。アマゾンの熱帯雨林の乱開発が一番の要因ですが、現在では温帯林の減少も無視できない規模になりつつあります。このまま酸素濃度の減少が続けば、人間の健康にもさまざまな影響が出てくる可能性があります。


二酸化炭素による破局的災害と生物の絶滅

温室効果による地球温暖化は徐々に異常気象などの形でしのび寄ってくるものですから、今日明日、すぐに命がなくなるという切迫感がありません。そのため排出ガス規制もなかなか交渉が進みません。しかし著者が心配するのは緩慢な破局ばかりではなく、突然の破局が起こりうるということです。具体的にカメルーンで実際に起こった事件を紹介しています。
 西アフリカ、カメルーンの奥地で1984年と1986年に起こった悲劇です。ジャングルの奥にある高地の湖沼群地域は、自然豊かで村は農業と牧畜で平和に暮らしていました。そこにはニヨス湖というマールと分類される火山の爆発の後に出来た湖がありました。1986年の8月21日の夜に、この湖底から膨大な量の二酸化炭素が噴出し湖岸からゆっくりと周辺に広がり、最初に湖畔の村をはじめ周辺に住む全ての生き物の生命を奪いました。更に、この空気より重いガスの雲は高地から音もなく滑り下りながら、周辺の全ての地域の生命を奪い、最終的に1700人の死者と1000人の負傷者、1万人の避難民を出す大惨事となりました。一体何がこの時二酸化炭素の大量噴出の引き金になったかは明らかにされていません。しかし、湖底にたまっていた二酸化炭素で過飽和になった水は非常に不安定で、何かのショックで突然ガスを噴出したであろうことは、ソーダ水を振った経験があれば容易に想像できることです。カメルーンの場合には直径約2kmの湖でしたが、海洋で地球規模の二酸化炭素噴出が起こったら、どんな破局となるか想像できるでしょうか。
二酸化炭素が原因の地球規模の破局は想像ではなく、現実にこの地球で2億5千万年前に起こっていたと考えられています。”古生代ペルム紀の大絶滅”がそれです。この大絶滅の後、僅かに生き残った生物により中生代が始まります。
これまで地球では5回の生物の大絶滅がありました。このうち2回は隕石の衝突によると考えられています。しかし、このペルム紀大絶滅の原因は諸説があるものの、二酸化炭素濃度の急上昇、海底のメタンハイドレートの融解などによるものではないかと考えられているのです。そのきっかけが何であったかについて、明らかではありませんが大陸移動のプレートの動きや氷河の融解による海水面の冷却などが取り沙汰されています。
いずれにせよ、大気中の二酸化炭素濃度が急増すると破局は現実のものになるということが重要です。


二酸化炭素ガス急増に対し人類はどう立ち向かえば良いのか

これまでに、地球に存在する二酸化炭素は主に3つの場所に貯留されています。海洋、土中、大気です。土中が最も安定で石炭、石油などの化石燃料、大理石などの鉱物に炭酸塩として含有されます。そのほか森林という形で地上にも仮置きされています。海洋は大気中に放出された二酸化炭素を吸収しますが、現在、既に目いっぱいに溶解されていますので、新たに発生した二酸化炭素は大気中にとどまるしかありません。大気中の二酸化炭素は赤外線を吸収し気温を上昇させます。そうすると、大気に接する海水温が上昇し、二酸化炭素の溶解度を減らすために、更に大気中の二酸化炭素濃度が増え温暖化が加速されます。
 二酸化炭素の増加が化石燃料の燃焼によって引き起こされていることは、間違いありません。このため京都議定書により、初めて国際的にこの問題に対処することが決められました。しかし、これに参加しない大口排出国の存在や、技術的、経済的に排出枠を実現できない状況で実効性が疑問視されています。
『気候変動がもたらす被害額は、それを防止するための費用を大きく上回る』(英外相マイケル・ミ-チャー)ことは大方の理解を得ているものの、個々の利害や経済事情を如何に調整するかが現実問題としてに立ちはだかっています。


環境問題へのトリアージュのすすめ

 

トリアージュとは大きな事故、災害が起こったとき、限られた医療資源を最も効率的に使うために、あらかじめ被害者の状況を把握して治療の優先順位を決めることです。これと同じことを、地球環境問題に適用しようという考え方です。このためには緊急度を評価する具体的な判断基準が必要です。そして、『行動を起こす時期とは、変化を起こす手段が分かった時である。証拠が全て揃った時ではない。』ということを強調しています。たとえばアマゾンの熱帯雨林の乱開発による砂漠化は貧困が原因であることは明らかなので、熱帯雨林保有国に資金援助をすることも選択肢になるということです。


地球庭園再生計画

温暖化を防止する対策は、『化石燃料消費を削減し、大規模植林を行い、海を守る』事に尽きます。このためには人間が生活のために使うエネルギーの転換が急務です。これまで代替エネルギー源として水力、太陽光、風力etc.など自然エネルギーが検討されてきましたが、いずれも建設コスト、効率、安定性まで考えると、決して経済的に化石燃料には及びません。『環境問題は経済問題』という観点で考えれば、重要ではありますが、補助的エネルギーにとどまります。原子力は最終処分の問題や安全性を考えると、とても代替手段とはなりません。著者の究極の提案は核融合反応によるエネルギーので生成です。これこそ著者ブランデンバーグの物理学者の見識として注目すべき提案です。


重水素(D)と原子量3のヘリウム(3He)の核融合による新エネルギーの開発

夢のエネルギーと言われる核融合発電は放射性廃棄物を出さず暴走などの心配がない、きれいなエネルギー源として開発が待望されています。核分裂を利用した現在の原子力発電は核廃棄物や運転中の放射線の危険性など、問題が多すぎ、チェルノブイリの悲劇が繰り返される可能性があります(注:著作中にはまだ福島原発の事故は起こっていない)。
 核融合反応は各国で国家プロジェクトとして研究が進められていますが、現在極めて短時間、実現しているにすぎません。著者はいくつかある核融合反応のうち、重水素(D)と原子量3のヘリウム(3He)の核融合に着目しています。それは放射性物質が出ないので扱いやすいことと直接エネルギーを電気に変換しやすいというメリットがあるからです。問題はヘリウム3が地球上にないことですが、月面探査クレメンタイン計画に参加した著者は、アポロ計画で明らかになった月面に大量に存在するヘリウム3を利用することを提案しています(注:著作時点では予想もできなかったことですが、2013年中国が月面着陸に成功し月面探査を開始しました。それはヘリウム3の獲得が真の目的であるといわれています。また近年アメリカが月面探査を再び活発化させているのも同じ理由からと推測されています)。
核融合炉の開発には現時点では多くの困難が立ちはだかり、現実的温暖化政策にはならないと考えられるかもしれません。しかし、かつて原爆を開発したマンハッタン計画のようなプロジェクトを、今度は人類の英知を結集して、立ち上げることができれば、夢は現実のものとなるというのが著者のメッセージです。